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その日も、前日にマコトとホテルで一泊し、チェックアウトのために身支度を整えてた。
その時、あの地震はやってきた。
いつもとはまるで規模が違うその感覚に、さすがに危機感を覚えた。
倒壊のおそれがあるからと言われるし、まぁ言われなくてもチェックアウトなんでとりあえず外出て近くの公園へ避難した。
公園には多くの人が集まってきていた。
これからどうしようか考えながらも、余震が激しく続いてた。
こんな時に限って、私は体調が悪かった。
動こうにも動けない。
マコトはこれから仕事に行く予定だったけど、さすがにあの状況じゃあ仕事云々なんて言ってる場合じゃない。
私はお家に帰るだけだったけど、その時の現状では電車が動いてる保証はなかった。
幸いマコトの自宅は都内だから最悪歩いて帰れる。
私は無理だ。 ここは新宿、家は神奈川の辺境だ。
電車が動いてる保証も無く、具合が悪くてロクに動けもしない。
夕方の時間、日が下がってくると徐々に気温が寒くなってきた。
加えて雨まで降り出す始末。
このまま外で突っ立ていることもままならくなった。
私に選択肢はほとんど無かった。
結果、私はホテルに戻り休養&交通機関の事態の改善を待つことになった。
真琴は仕事も休み、家にも帰らずに私に付き合ってくれた。
あの時、真琴の自宅にはパートナーが居た。
地震の直後に真琴はパートナーに連絡を取り、状況を確認してた。
携帯電話で話す真琴越しに、Yちゃんの不安な様子が伺って取れた。
真琴を返さなきゃ。
そう思って家に戻るよう薦めたけど、真琴は完全に立ち往生した私のことを気遣かってその日も一緒に泊まって過ごすことになった。
真琴はパートナーにも手をまわして、知り合いの人の元へ行くように指示した。
とりあえずこれで一安心だった。
でも、Yちゃんはその日、他の人の恋人になったという。
あの地震の時、自分のことを励ましてくれた人のことを。
Yちゃんの心は離れていた。
私とYちゃん、どちらも対等に扱うと言ったマコト。
でもマコトは一人しかいない。
それは、マコト一人分の愛情を、私とYちゃんに等分するということ。
Yちゃんにとって、マコトの愛は半分じゃ足りなかったのかもしれない。
あの時、マコトは私の傍に居ることを選んでくれた。
あの時の私には、他に頼るツテなんて無かった。
Yちゃんにはマコト以外にも頼れる人がいた、
ただそれだけの話なんだよ。
何が悪いわけじゃない。
ただ結果がそうなったに過ぎない。
マコトは一人しかいない。
マコトだって、本当はあの時どちらかなんて選べなかったに違いない。
大した間もない内に、マコトは相方に私のことを打ち明けたらしい。
「他に好きな人が出来た」と…
なんでそんなことを…
そんなことを言ったところで、相方を傷つけるだけだって事は分かりきっているのに。
私は自分からマコトには多くを望まなかった。
それは、何よりイレギュラーなのは私の方だからだ。
傷つけるだけなら、知らない方がマシだ。人には知らなくてもいい事実だってある。
でもマコトは、「隠すのは嫌だから」と言った。
確かにそうかもしれない。
人に何かを隠したり、秘密にしたりするのは後ろめたく、何処か心苦しい。
それが大切な人なら尚更だ。
自分の気持ちに正直でありたい。
大切な人を騙しつづけるのは罪か、
大切な人を傷つけ兼ねようとも、真実を伝えるのはエゴか…
どちらが正しいかなんて、そんなの誰にも分からない。
マコトはただ不器用なだけだ。
私と同じ。
そう、マコトと私はよく似てる。
誰かの為に戦い、
守って、
その身を呈して、
そして内に秘めたるものもきっと。
確かに初めからそんな印象はあった。
何処かボーイッシュで、
何処か他の人とは違う影を持ってる。
私と同じ。
だから惹かれたのかもしれない。
私のような人間は、普通自分と同質の人間を嫌う。
それは自分と同じ人間がいると自分の存在意義を失くしてしまうからだ。
この手のタイプは自分のことが嫌いな人間に多く見られる。
自分のことが嫌いな人間がもう一人いる、嫌いな自分を客観的に眺めるようで嫌なのさ。
でもマコトは違う。
私も。
自分が理想とする人間なんていないから、
自分自身が自分が理想とする役割を演じる。
だから惹かれるのさ。
自分が求めていた人間がそこにいるから。
でもそれは演じられた役割。
そう。マコトもきっと同じ。
あれから毎週のようにマコトと会うようになった。
毎回ラブホで一泊。
私はいいけど、マコトは毎週のように家を空けて相方に不審がられたりしてなかったんだろうか?
かと言って、日帰りじゃ一緒に居られる時間は短いし疲れるし、
なんだかんだで私が「泊まりがいい」って我が儘言ってた気がする。
いけない事をしてるなぁって思いながら、ダラダラと毎週決まった曜日に会ってた。
私は、マコトに多くのことを望んでるけど、
多くのことを期待してなかった。
パートナーがいるって分かってて手を出した、
何も求められないだろ?
こうして毎週会えるだけでも十分過ぎるんだ。
それでもマコトは応えてくれたから、
だから優先順位があったっていい。
例え二番目でも、その愛を享受出来るならそれでもいいって思ってたんだ。
いや、むしろそれが良いって思った。
悪意がなかったとはいえ、何もマコトのパートナーを傷つけたり、辛い思いをさせたくてしてるんじゃない。
パートナーとの関係が崩れてしまうのは、何よりマコトにとっても辛いことだ。
いけないことだとは分かっていても、罪悪感がないわけじゃない。
もっとも、分を弁えているからといって許される…何てこともないが。
でもマコトは、私とYちゃん、どちらも対等に扱うと言ってくれた。
今の私は誰かに支えられたい。
私のことを想ってくれる人に、
今は存分に甘えたい。